◎和算序林の用語解説

【序(じょ)】 本の前書き。まれに「後序(こうじょ)」と題して、本のうしろのほうについていることがある。

【跋(ばつ)】 本のあとがき。「跋」「○○(本の題名)跋」などの題名がないときがある。

【訓読(くんどく)】 漢字だけを使って書かれた文章(漢文)に、送り仮名などをつけて読みやすくしたもの。中国語を日本語に翻訳したもの。

【訓点(くんてん)】 漢字の左下についている、カタカナ「レ」に似た返り点や、一二三…(一二点)、上中下(上下点)、天地人(天地点)、甲乙丙丁(甲乙点)の総称。

【白文(はくぶん)】 訓点や送り仮名などがない、漢字だけの文章。

【竪点(たててん)】 漢文を読みやすくするために、漢字にそえられた短い縦線(縦棒)のこと。漢字Aと漢字Bの間の、中央(中央線)、右(右傍線)、左(左傍線)、および漢字一字Cの、右側(右側線)、左側(左側線)につけられる。中央線や右傍線はABで漢語の熟語。左傍線はAを和語としてあつかい、原則的に訓読みし、Bは訓読み・音読み・読まない(置き字のとき)の3通りがある。漢字Cの右側に線がある右側線はCを音読み、左側に線がある左側線はCを訓読みする。貝原益軒の『點例』元禄16(1703)上に、「五には竪点。是は音にて読むには、上下の文字の間の右に竪点を引く。訓にて読み、或上か下か一字訓にて読むには、上下の間の左の旁に竪点を引く」とある。竪点は縦点、立点とも書く。

【句点(くてん)】  和算書の序文では、句点(文章の終わり。現在の「。」)と読点(語句の切れ目。現在の「、」)を区別せず、同じ句読点をもちいることが多い。「○」を「圏(けん)」、「◦」を「小圏」、「丶」を「批(ひ)」という。句読点は、二つの漢字のちょうど中央、つまり字の間に置かれるほか、字の右側、字の右やや下、字の右下などに置かれる。太宰春台『倭読要領』(1728)は、圏と批の用法は一様ではないと指摘している。

【台頭(たいとう)】 最上級の敬意をあらわすため、貴人の名や年号を、改行したあと、前行より一字分ほど高く書くばあいを台頭(旧字体では擡頭)という。『古今算鑑』内田恭(五観)序、『算学鉤致』石黒信由序にみられる。和算序林の【原文】では「←」で表示。

【平出(へいしゅつ)】 中級の敬意をあらわし、名や称号を書く直前に改行して、前行と同じ高さで名や称号を書くこと。平頭抄出(へいとうしょうしつ)ともいう。

【闕字(けつじ)】 名や称号の、すぐ上を一字または二字分あけて書くこと。欠字とも、闕如ともいう。平出を一行闕字とよぶこともある。

【発語(はつご)】  漢文の文頭に置かれ、語気をつよめる役割をする漢字を発語という。「夫(それ)」「其(それ)」「厥(それ)」「蓋(これ、けだし)」などがある。「若夫」は二字で「もしそれ」。発語には、とくべつな意味はない。対称的に本文の最後に置かれる、「云(という)」「云爾(しかいう)」を、和算序林では終語とよぶ。終語は、文章を締めくくり、「以上のとおり、述べる次第です」という意味がある。

【傍訓(ぼうくん)】 振り仮名のこと。

【和刻(わこく)】 日本で中国の本を印刷すること。刻は、版木をきざむ、という意味。

【朱引き(しゅびき)】 熟語となっている漢字のうえに、朱色の、一本または二本の縦棒を書き加えたもの。現代風にいえば、受験生が重要な語句に鉛筆などで引いたアンダーラインのようなもの。朱引きは、その熟語が地名・人名・書名などであることをしめしている。太宰春台『倭読要領』(1728)に紹介されている朱引きの意味の覚え歌は、「右(みぎ)所(ところ) 中(なか)は人の名 左(ひだり)官(かん) 中二(なかに)は書の名 左二(さに)は年号」。寺島良安『和漢三才図会』(1712)では、一画の漢字の「丨(コン)」をつかって、一本線の朱引きを、「丨(こん)朱引き」とよんでいる。覚え歌は、「丨朱引 左は物の名 右名所 中は故人の名とぞ知るべし」。二本のばあいは、「管(くだ)朱引き」とよび、「管朱引 左は年号 右官位 中は書物の名と覚ゆべし」。

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