◎全般的な解説をかねた雑談

和算書の序文や跋文は、書き手の立場によって、内容が分類できる。
序跋の書き手がその本の原著者とどんな関係にあるか。つまり、序跋の書き手が、(1)原著者と一致つまり自序・自跋のとき(2)原著者の師匠のとき(3)原著者の門人のとき(4)原著者の先輩や友人であり、乞われて本の題名を命名したり、序跋を書いたとき、などによって、主張するポイントがちがってくる。

(1)自序では、「出版したくなかったが、やむなく要望に応えた」と謙遜する。
(2)師匠は、「この著者は若くして自分を越えるほど優秀であった」と賞賛する。
(3)門人は、「この本には数学の秘術が凝縮している」と力強く主張する。
(4)先輩は、古典を引用して書名の由来をあきらかにし、「この本を読め」と宣伝する。

以上が、序文や跋文の典型的な内容だと思う。
和算書の序跋のほとんどは、漢字と訓点およびカタカナの送り仮名で構成される、いわゆる和漢混淆(こんこう)文。江戸時代の公文書や手紙に用いられた、候文ではない。訓点や送り仮名のない、白文の漢文でも、いくつかの語句は熟字訓すなわち和漢をまじえて読んでいると考えられる。中国語のつもりで書いたかもしれないが、書いた本人に聞いてみないとわからない。(注:熟字訓とは、たとえば時雨を「しぐれ」、今朝を「けさ」、海豚を「イルカ」と読むこと)
書体は、楷書が50パーセントをしめ、30パーセントが行書、18パーセントが草書(草体)、残り2パーセントが隷書などになっていると思う。行書と草書の区別はつきにくいので、「草行書」としてまとめると、要するに、「楷書と草行書が半々で、ごく一部に隷書などの例外がある」。

まれに、『算法助術』の武田保勝序、『算法少女』の一井素外跋のように、くずし字で書かれた漢字ひらがな交じり文がある。

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