◎一極算法（安藤吉治）[1]
○一極算法序
一極算㳒序
數學之撰書也追其舊加此新舉玆是削彼非故積歳達士衆重日工夫熟焉可謂踵其事而増華變其本而加厲者也其所撰著者至數十家近看一書起平方冪而終五乗演段其撰也精而志數學者不可不窺雖然惜哉筆閣五乗而不著其餘矣安藤氏吉治生自幼志此學既盡其淵源一日閲彼書而有意補遺則接武成編先著六乗冪演式七乗以上者以位數繁多少略之名曰一極算㳒術之詳事之精實是數學之筌蹄後進之指南也能依此書則非唯求演式而識數之極一矣而先所謂增華加厲之言於此不可無感也書既成欲壽梓就予請序蓋數學之爲世益何待予推奨也故略不贅聊漫述所以撰此書者以塞其求云
元禄二歳次己巳五月既望縣豫庵書于片雲齊（印）（印）
【訓読】
一極算法序
数学の書を撰（せん）するや、その旧を追って此の新に加え、茲（ここ）の是（ぜ）を挙げて彼（か）の非（ひ）を削る。故に歳を積みて達士（たっし＝達人）衆（あまね）く日を重ねて工夫、熟す。謂いつべし、その事に踵（かさね＝重）て、華（はなばな）しきを増し、その本を変じて厲（れい＝病気、災い）を加うるものなりと。その撰著（せんちょ）するところのもの、数十家に至る。近ごろ一書を看（み）る。平方羃に起こりて五乗の演段に終わる。その撰（えら）ぶや、精して数学に志す者の窺（うかが）わざるべからず。然（しか）りと雖も、惜しいかな筆を五乗に閣（お）いて、その餘（よ）を著さず。安藤氏吉治生、幼よりこの学に志し、既にその淵源を尽（ことごとく）す。一日、彼（か）の書を閲（み）て、補遺（ほい）に意（い、おもい）あり。則（すなわち、たちまち）武（あし）を接（つ）ぎて編を成（な）す。先（ま）ず六乗羃の演式を著す。七乗以上は位数繁多なるを以て少（すこ）しくこれを略す。名づけて一極算法と曰（い）う。術の詳（つま）びらかなる、事の精（くわ）しき、実にこれ数学の筌蹄（せんてい＝案内、手引き）、後進の指南なり。よく此の書に依（よ）らずば、則ち唯、演式を求めるにあらず、数の一に極まるを識（し）らん。而して先に所謂（いわゆる）華（はなばなし）きを増し、厲（れい＝病気、災い）を加うるの言、ここにおいて感ぜなかるべからず。書、既に成る。梓に寿（じゅ）せんと欲（ほっ）す。予（＝私）に就（つい）て序を請（こ）う。蓋（けだ）し数学の世の益たる、なんぞ予が推奨を待たんや。故に略して贅（ぜい）せず。聊（いささ）か漫（みだり、ほしいまま、そぞろ）に此の書を撰する所以（ゆえん）のものを述べて、以てその求めを塞（ふさ）がんと云う。
元禄二（1689）歳、己巳に次（やど）る、五月既望（きぼう＝十六日）縣豫庵、片雲齊に書す。
○巻尾の識語
凡演式有直減二法若以比六乗式依直演則兩式各得五千五百三十八位其術繁長故今僦減演以記之其理一也此外雖有貫通旨姑于茲惟演式舉一隅耳
元禄己巳五月上弦日安藤氏吉治謹書（印「藤原」）（印「吉治之印」）
【訓読】
凡そ演式に直減の二法あり。若（も）し比の六乗式を以て直演に依（よ）る則（ときん）ば、両式各（おのおの）五千五百三十八位を得る。その術、繁長（＝複雑で長い）なり。故に今、減演に僦[2]（つ）いてこれを記す。その理、一なり。この外、貫通旨ありと雖も、姑（しばら）く茲（ここ）に止（とど）む。惟（ただ）演式の一隅を挙げるのみ。
元禄己巳（＝元禄二年（1689））上弦日（＝陰暦七、八日ごろ）、安藤氏吉治、謹んで書す。